すべてが本になる

日々の雑感、書評などを公開していきます。つまらない本などありません、つまらないと感じたならば、それは自分がその本の面白さを見つけられなかったのです。

すべてがFになる~犀川創平は天才なのか~

本日は私が最も敬愛する作家、森博嗣先生のデビュー作『すべてがFになる』のご紹介です。

 

すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&M

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一言で言ってしまえば、孤島で密室殺人事件が起こる、というミステリーとしてはオーソドックスな設定です。

森博嗣の本当の処女作は『冷たい密室と博士たち』でしたが、担当編集氏の鶴の一声で本作がデビュー作として出版されたのは有名な話。

 

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

 

 

さてさて、『すべてがFになる』に戻りましょう。

ある日、N大学の学生、西之園萌絵は、絶海の孤島妃真加島で、天才プログラマ真賀田四季との面会に挑みます。

面会後、N大の教員犀川創平に面会の話をすると、犀川は「自分も真賀田四季に会いたい」と言うのでした。

大好きな犀川のそんな言葉に、萌絵は「今年のゼミ合宿は妃真加島に行きましょう」と提案します。

そして、妃真加島でのゼミ合宿中、真賀田研究所を2人は訪れます。

しかし、鉄壁のセキュリティで守られているはずの真賀田博士のラボからは花嫁衣装を着た遺体が出現したのでした。

 

私がこの作品を読んだのは、今から10年前。16歳の夏でした。当時小説なんて読んだことの無い私が、何気なく文庫本のコーナを見ていると、この『すべてがFになる』という衝撃的なタイトルが目に飛び込んできたのです。

自分でも驚くくらい、自然にこの小説を購入した私は、ミステリーというものの面白さの沼にはまっていくことになります。

 

当時の私にとって、ミステリーといえば、『家政婦は見た』。密室と言えば「実は秘密の経路があったのだ!」という程度のもの。

くだらない分野だと思っていました。

しかしその世間知らずは、この作品を端緒にして一気に消えていくのです。

 

ラボは24時間監視カメラで監視、カメラのログは完全に残っている、内部から鍵を開けることは出来ない、室内に人が出入り出来る経路は無い、自殺しか考えられないが、しかし遺体は両腕を切断されている。

これだけの不可能状況を作り出し、どのようにして密室をクリアするのか。

このトリック、当時はアンフェアだ。とか、○○の知識を自慢しているだけ。という批判も噴出したようですが、私が読んだときには時代が追いついたのか、簡単こそしても違和感を抱くトリックではありませんでした。

 

このトリックを編み出した犯人は天才ですが、それを見破った犀川創平は天才なのでしょうか?

もしも天才がある一方向に突出した人間である、というのなら彼は間違いなく天才です。

しかし、本作では天才、真賀田四季はあらゆる分野における天才として描かれているため、犀川創平のその天才が埋もれてしまっているのです。

 

森シリーズを通して染みついてしまう考え方として「でも真賀田四季の方が

すごくない?」という身も蓋もないイメージなのです。

ここまで勝てる気のしないキャラクターを一作目で登場させてしまう、森博嗣の才能には失禁してしまうのであります。

 

天才というのは私みたいな凡人からすると手の届かない人々に見えますが、彼らの中にもまた、才能という序列が存在するのです。

真賀田四季を見て、どこか孤独に見えるときもありますが、彼女は大衆が思うように孤独でも無く、そしてその才能は大衆の想像よりも偉大なのでした。

そんなことを思わせてくれるほどのパワーを持ったキャラクターを創造した森博嗣に格別の感謝を捧げます。